桜〜又兵衛桜の場合
大坂城が落城したとの話が大和の国の山間部にまで伝わって来た頃、ひとりの男がこの地に落ち延びてきた。
「もうひと花咲かせようと思ったが、それもかなわぬことであった・・・。なにはのことは夢のまた夢・・・」
男は剃髪して僧侶となり、静かに余生を送った。
大阪夏の陣の話も、それ以前の戦国の混乱期の話も遠いどこかの昔話となり始めた頃、この男が暮らした屋敷跡に一本の桜が生えていることに気がついた。
けっして群れることなく、あたりの山々を睥睨するかのように咲く一本のしだれ桜。
その姿は、かつてこの屋敷の主であった男の姿を彷彿とさせた。
「おぉ。これはまさしく又兵衛様・・・。」
黒田官兵衛から我が子以上の薫陶を受けたとされている、後藤又兵衛。大阪夏の陣で戦死したと言われていたが、伝承ではここ大宇陀の地に落ち延び、余生を送ったと言われている。
それから300年あまり。
一人の男が大宇陀にやってきた。
「なーにが、誰も見たことのない景色を撮ってこいだ。簡単に言うんじゃねーよ!!」
男は数年先に放映される、とあるドラマのオープニングにふさわしい題材を探していたのだ。
大物脚本家が選んだ題材は、徳川家三代の物語。正直出尽くした内容だけに、会社の命令は「印象的なオープニング映像を」であった。
「あ・・・」
広い田んぼにぽつんと。孤独を楽しむように、孤独でなければならないかのように咲く、一本の桜。
「あ、あのー。これ、なんていう桜ですか???」
問いかけられた大阪ナンバーはこう答えた。
「あー。これ。又兵衛桜って・・・」
「又兵衛桜!!戦国武将っぽくっていいや。じゃっ、どーも」
2000年1月。
あのドラマが放映された後、問い合わせの電話が鳴り続けていた。
「あの、オープニングのね。あの桜はどこの桜なの??」
・・・。
又兵衛桜。またの名を本郷の瀧桜。奈良県宇陀市大宇陀(旧 宇陀郡大宇陀町)本郷にて。
・・・・・住所と写真はホンモノ。逸話には若干手を加えて、そして一部妄想が・・・・・。
追記:やっと見つけた!(^^)!。冬枯れから一気に満開になる孤高の一本桜=又兵衛桜です!